智恵 「ちょっと康介、お母さん夜ご飯の仕度してるんだからあっちで絵本でも読んでなさい。」

キッチンに立つ母・智恵の脚に後ろから抱き付いている康介は、まだまだ甘えたがりの5歳の子供であった。

康介 「・・・・・・。」

康介はそう言われてもなかなか母・智恵の脚から離れようとしなかった。目に涙を溜めて、何も言わずに智恵のエプロンに顔を埋めている。

智恵 「なぁに?また幼稚園でイジメられちゃったの?」

康介 「・・・ぅぅ・・・・」

康介の涙と鼻水が智恵のピンク色のエプロンに染みを作る。

もう仕方ないわねぇと言いながら、智恵は優しい笑みを浮かべ康介を抱き上げてリビングのソファまで連れて行く。

康介を大きなソファに座らせると、智恵も横に座って康介の小さな手を優しく握って口を開いた。

智恵 「どうしたの?幼稚園で何かあったの?」

康介 「・・・ぅぅ・・・」

智恵 「ほら、いつまでも泣いてたらお母さん分からないわ。」

智恵は微笑みながらもちょっと困ったような表情を康介に見せて、そっと康介の頬に付いた涙を指で拭った。

康介 「・・・あのね・・・良太君がね・・・僕が作ってた泥団子・・・壊したんだよ・・・」

智恵 「泥団子?」

康介 「うん・・・僕が作って隠してた泥団子・・・良太君に見つかって・・・ぅぅ・・・」

智恵 「それで良太君に壊されちゃったんだ?ふーん、それでずっと康介は泣いてたの?」

康介 「だって・・・だって・・・ぅぅ・・・ヒック・・・お母さぁん・・・」

再び涙がわぁっと溢れ出し、康介は泣きながら智恵に抱きついた。

智恵 「もう、仕方ないわねぇ康介は、泣き虫なんだから。男の子がそれくらいで泣いてちゃダメよ。」

智恵はそう言いながら、ワンワン泣き続ける康介の頭を撫でる。

なかなか泣き止まない康介に智恵は少し困った顔をしていたが、我が子を見つめるその母親の瞳は、温かな愛情に満ち溢れていた。

智恵 「ほら、もうすぐお父さんも帰ってくるし、お母さんご飯の仕度するからね。ほら、男の子がいつまでも泣いてちゃいけないわ、ね?康介元気になれる?」

智恵はそう言ってポケットからハンカチを取り出し、康介の涙と鼻水でグシャグシャになった顔を拭いた。

康介 「・・・・うん。」

智恵 「よしよし!じゃあ洗面台で手と顔を洗って来なさい。フフッ、今日のご飯、お父さんと康介のためにお母さん頑張ってるんだから。」

康介 「うん!」

すっかり元気を取り戻した康介が笑顔でそう答えると、智恵も笑顔で康介とハイタッチしてからソファから立ち上がってキッチンへと向う。

顔を洗った康介はリビングで絵本を読んで、夜ご飯ができるのと父親が帰ってくるのを待っていた。

智恵 「あ~もう!また焦げちゃった・・・うーん今度は上手くいったと思ったのに・・・あ!こっちの鍋も!・・・はぁ・・・」

時折聞えてくる苦手な料理に悪戦苦闘する智恵の声に、今度は康介が智恵の方を心配そうに見つめている。

智恵 「大丈夫よ康介!ちゃんと3人分は栄養のあるものできるから!」

康介 「うん、頑張ってお母さん。」

康介は料理をする母の後姿を見るのが大好きだった。

幼稚園で友達と遊んでいる時間よりも、こうやって母と過ごす時間の方が何倍も楽しい。

なんとか出来上がった料理達を食卓に並べながら、智恵と康介は父・敏雄の帰りを待っていた。

康介 「お父さん、遅いね。」

智恵 「ぇ?・・・うん・・・そうね、お父さんお仕事忙しいから。」

そう俯き加減で呟く智恵の表情が、その時の康介にはなんだか元気がないように見えていた。

子供というのはいつも大人の顔色を観察するように見つめているものだ。

その時も子供ながらに康介は感じていたのだ、毎日父親の帰りを待っている時にだけ、智恵の表情が暗くなる事を。

トゥルルルルル・・・・!!トゥルルルル・・・!!

部屋に電話の音が鳴り響く。

それを聞いた瞬間、智恵の顔がパアっと明るくなる。息子の康介も母親のその表情を見て笑顔になった。

智恵 「きっとお父さんだわ!」

そう言って、智恵は電話の方へ駆けていく。

智恵 「もしもし富田でございます・・・・あなた?えぇ、もう今・・・・え?・・・そうなの・・・・」

智恵の後を追い電話の所まで来て、寄り添いながら下から電話をする智恵の表情を見上げていた康介。

電話に出て少し話をしている内に、笑顔だった智恵の表情がすぐに曇っていくのが康介にも分かった。

智恵 「・・・今日もなの・・・?あなたどうしてそんなに・・・そんなのもう信じられ・・・!・・・ううん・・・ごめんなさい・・・分かりました・・・はい・・・はい・・・」

受話器をそっと置く智恵。

康介はその時の智恵の目をしかっりと見ていた。涙を浮かべ、悲しそうにしている母・智恵の瞳を。

康介 「・・・お母さん・・・大丈夫?」

智恵 「・・・ぇ?あ、うん!ごめん康介・・・お父さん今日も遅いみたいだから・・・2人で先に食べちゃおっか。」

智恵は康介に見えないように目を擦ってから、笑顔を作ってそう言った。

康介はそれまでにも何度か母・智恵の涙を見た事がある。

そういう時はいつも康介は智恵に抱きつきに行って、智恵も康介を抱きしめながら、小さな声で康介にありがとねと囁いた。

智恵 「フフッ、今日は具沢山のお味噌汁だからきっと美味しいわよ。」

智恵は味噌汁を口に運ぶ康介を見ながらそう言うと、自らもお椀を手に持って味噌汁に口を近づける。

智恵 「・・・ん?なんかこれ・・・あらヤダ!私また出し取るの忘れてたわ!・・・はぁ・・・全然美味しくない・・・。」

智恵はまたも同じ失敗を繰り返してしまった自分に、落胆の表情を浮かべていた。

しかし康介はそんな智恵の落ち込む様子を見ながらも、黙々と味噌汁を食べ続けている。

智恵 「康介、いいわよ無理して食べなくても。はぁ・・・嫌になっちゃうわ、お母さんドジだから・・・」

康介 「ううん、お母さんのお味噌汁美味しいよ。お母さんのお味噌汁、僕大好きだよ。」

智恵は笑顔でそう言う康介に少し驚きながら、そして笑顔を作って康介の頭をそっと優しく撫でた。

智恵 「・・・ありがと、康介。康介は優しいんだね・・・お母さん嬉しい・・・。」

目に涙を浮かべる智恵を見た康介が「お母さんも泣き虫だね」と言って2人で笑った。

その日の夜、眠れなかった康介は子供用の小さな布団から出て智恵の布団の中に潜り込んだ。

智恵 「どうしたの康介?もう1人で寝れるんじゃなかったの?」

康介 「・・・・・。」

康介は黙って智恵に抱きついて、智恵の横で目を閉じた。

智恵 「仕方ないわね康介は・・・甘えん坊さんなんだから。」

智恵は微笑みながらそう言って康介を布団の中で抱きしめる。

父・敏雄はまだ帰ってきていないようだった。

智恵 「・・・お母さんも・・・寂しい・・・」

智恵がボソっと言ったその言葉は、母親の温もりに包まれながら目を閉じている康介の耳にも、しっかり届いていた。

――――――

いつもなら幼稚園のバスから降りると母・智恵が優しい笑顔で家の前で待ってくれているはずだったが、その日はなぜか家の前に智恵の姿はなかった。

保母さんが康介に「お母さんいないね、康介君お家には入れる?」と聞くと康介は「うん」と答えた。

康介 「ただいまぁ!お母さーん!」

家の玄関を開けて中に入ると、康介は少し不安そうな表情で母親の名前を呼んだ。

・・・・・・

返事が返って来ない。

康介の目に涙が溜まる。

小さかった不安が一気に大きなモノへと変わっていく。

エプロン姿で忙しく晩御飯の仕度をしている母・智恵の姿を想像して、早足でキッチンに向かう康介。

しかし、そこにも智恵は居なかった。キッチンには冷たい空気が流れ、静まり返っていた。

康介 「お母さーん!どこにいるのぉ!?お母さーん!」

どうしようもない不安に駆られ、震えた声を出しながら、康介は泣きだしてしまう。

と、その時だった。

・・・ガタガタ・・・ゴソゴソ・・・

静まり返っている家の中で、康介は微かな物音と人の気配を感じた。

康介 「・・・お母さん・・・?」

キッチンから出て、そっと廊下に顔を出す康介。

智恵がいるかもしれないという期待と、何か怖いものが出てくるのではないかという不安が康介の胸の中で入り交ざる。

・・・ドキドキドキドキ・・・

・・・ガタ・・・ゴソゴソ・・・

物音と人の気配は、廊下に面した寝室の部屋から感じる。

康介 「・・・お母さん・・・」

・・・ガチャ・・・

ゆっくりと開く寝室のドア。

・・・・・・

智恵 「・・・ぇ・・・康介?」

寝室から出てきたのが智恵だと分かった瞬間、康介は智恵の所へ駆け寄って勢いよく抱きついた。

涙を流しながら抱きついてきた康介を見て、智恵は申し訳なさそうに謝る。

智恵 「ごめん康介・・・もうこんな時間だったのね。」

康介 「ぅぅ・・・お母さん・・・居なくなっちゃ嫌だよ・・・ぅぅ・・・」

智恵 「ごめんね康介、お母さんが悪かったわ。」

康介 「・・・ぅぅ・・・」

智恵は何度も謝りながら、泣き続ける康介の頭を撫でていた。

少しして落ち着きを取り戻し始めた康介は、智恵の顔を見てある事に気が付いた。

康介 「・・・お母さん、身体の具合でも悪いの?」

智恵 「ぇ・・・どうして?」

康介は智恵が額に汗を掻いている事に気が付いたのだ。髪の生え際もその汗で濡れているように見える。

それに今日の母・智恵はなんだかいつもと違う香りがすると、康介は子供の敏感な嗅覚で感じ取っていた。

康介 「・・・・・・。」

康介が子供ながらにそんな疑問を抱いていると、寝室の中から今度は違う、父親のものでもない、聞いたこともない声が聞こえてくる。

高木 「どうしたんだ智恵?何かあったのか?」

薄暗い寝室から康介の知らない男性が、ズボンのベルトを締めながら出てきた。

智恵 「あ、あの・・・子供が・・・」

高木 「ん?へぇ・・・居たんだ、子供なんて。」

知らない大人を前にして、康介は隠れるようにして智恵により一層強く縋り付く。

智恵 「こ、康介・・・この人はね、お母さんのお友達の高木さんよ。」

康介 「・・・・。」

智恵がそう言っても康介は黙ったままだった。子供ながらに、この高木という男に対して何かを感じていたのかもしれない。

それに母・智恵の様子もどこかおかしいと康介は感じていた。

高木 「フッ、じゃあなんだ、これはあの富田社長のガキって訳か?」

智恵 「ぇ・・・えぇ・・・そうです・・・。」

高木 「へぇ、なるほどねぇ。」

高木は口の端を吊り上げながら、大きな手で母親に抱きついて離れない康介の頭を撫でた。

高木 「フッ、いいなぁ君は。将来トミタグループの社長を継げるんだもんなぁ、羨ましいよ。」

康介はそう言われてもなんの事だかさっぱり分からないといった様子で高木を見上げる。

康介 「・・・オジさん・・・誰?」

康介のその純粋な問いに、高木は少し考えてこう答えた。

高木 「ん?俺か?俺は君のお母さんとこういう事をする男さ。」

高木はそう言って、康介を腕に抱く智恵に顔を近づけて、その唇を奪った。

康介は突然目の前で起きた事に、唖然として目を丸くする。

智恵 「ン・・・ン・・・い・・イヤッ!高木さん・・・止めて下さい!子供の前でなんか・・・」

そんな高木を拒絶する智恵。しかし高木はそれでもニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべてこう言った。

高木 「康介君だっけ?君、向こうの部屋で遊んできなさい。お母さんはオジさんとまだこの寝室でやる事があるからさ。」

智恵 「な・・・何を言ってるんですか高木さん・・・」

康介は何も言う事ができず、ただ母・智恵の顔を見つめている。

高木 「フッ、またヤりたくなっちまったんだよ。いいだろ?」

智恵 「そんな・・・子供がいるんです・・・」

智恵は困惑している。智恵の困惑が子供の康介まで伝わってくる。

高木 「おいおい、お前は俺のなんだってさっき言ったんだ?〝姓奴隷〟だろ?お前に拒否する権利なんてないんだよ、わかったか?」

智恵 「・・・・・・」

高木 「従えないなら俺はお前を捨てるぞ、いいのか?子供には適当に言えばいいだろ?早くしろよ。」

高木はそう言うと、1人で寝室に戻って行った。

智恵 「・・・・・・」

康介 「・・・お母さん?」

智恵は心配そうに見つめる康介の前で考え込むような表情を見せた後、ゆっくりと口を開いた。

智恵 「康介・・・あのね、お願いがあるの。リビングで絵本読んで待ってる事できるかな?」

辛そうな表情でそう言う智恵に、康介は不思議そうに見る。

康介 「お母さん・・・どこかへ行っちゃうの?」

智恵 「ううん、すぐに帰ってくるわ。・・・だから・・・ね?」

康介 「うん、僕待ってるよ。」

智恵 「ありがとう・・・お利口さんだね・・・」

智恵が頭を撫でて手を離すと、康介は智恵の顔を無垢な表情でジッと見つめた後、1人リビングの方へとテクテクと歩いて行った。

智恵 「・・・ごめん・・・康介・・・お母さん・・・もう・・・」

康介の小さな背中を見送った智恵は、涙目でボソっとそう呟くと、薄暗い寝室の中へ入っていった。

それから少し時間が経った頃、リビングで絵本を読んでいた康介の耳に、聞いたことのないような、しかし確かに母・智恵のものである声が届く。

智恵 「アッアッアッ・・・あああ・・・ダメッ・・・激しい・・・ンッンッンッ!!!アンッアンッ・・・!!!」

康介は母・智恵の身に何か起きたのかと思い、座っていたソファから立ち上がる。

心配そうな表情で廊下に顔を出す康介。

高木 「おいおいそんなに良いのか?まったく・・・子供がすぐ近くにいるってのに感じまくりかよ。淫乱にも程があるだろお前は。」

智恵 「アアッ・・・ハァァ・・・ン・・・ん・・・あぁ・・・言わないで高木さん・・・アッアッアッ・・・!!!」

聞こえる。

高木という男の声とギシギシとベッドが軋むような音、そして母・智恵の切羽詰った声が。

康介 「・・・お母さん・・・」

智恵の事が心配になってきた康介。

・・・お母さん・・・あの高木っていうオジさんにイジメられてるのかな・・・

母が心配・・・康介はただその一心で、廊下を歩いて寝室のドアの前まで来た。

智恵 「アアンッ・・・ああ・・・もうダメ・・・ハァァン!・・・高木さん・・・私・・・ああ・・・」

確かに母はこの部屋の中に居る。

そう確信した康介は恐る恐るドアノブに手を掛けて、ゆっくりとそのドアを開けた。

康介 「・・・・・お母さん・・・?・・・大丈夫・・・?」

薄暗い部屋の中は廊下とは違う、生温かくて重いような独特な空気と臭いで満ちていた。

ドアを開けたことで、そこだけ明るくなった場所に康介が立っている。

高木 「・・・ん?ハハッ、おいおい智恵、ちゃんと子供に待ってるように言わないとダメだろ?」

智恵 「ハァハァ・・・・ン・・・・ぇ?・・・康介!?」

髪を乱した母が、驚いた表情でこちらを見つめている。

服も何も着ていない母が、裸でこちらを見つめている。

全身を汗でテカらせている母が、四つん這いになって後ろから腰を高木に掴まれている母が、こちらを見つめている。

康介 「・・・おかあ・・・さん・・・?」

智恵 「・・・ぁ・・・ぁ・・・ダメ・・・康介・・・来ちゃ・・・」

唖然とした目で見つめ合う親子。

高木 「フハハッ・・・こりゃいい・・・康介君!もうすぐ終るからそこで見てなさい。これが君のお母さんの本当の姿だよ。」

高木は狂ったように笑いそう言うと、智恵の腰を掴んだまま、自身の腰を激しく動かし始めた。

智恵 「アッアッアッ・・・・ああ・・・ダメェ!・・・康介ぇ!お願い見ちゃダメェ!!ああああ!!!」


康介 「・・・・・・」

ただ呆然としてドアの前に立ち竦んでいる康介は、乱れる母親の姿を瞬き一つせずに見つめていた。

高木 「ハハハッ!!自分の子供に見られながらイクのか?とんだ変態だなお前は!!」

智恵 「ンンハァァ!・・・もうダメもうダメ!!アッアッアッアッ・・・高木さん・・・あああ・・・」

高木 「智恵!・・・見ろ!子供の目を見ながらイケ!分かったな!?命令だぞ!」

智恵 「ああ・・・そんな・・・許してください・・・アッアッアンッ・・・」

高木 「見るんだ!オラ!見ろ!」

高木はそう言って乱暴に智恵の髪の毛を引っ張って、その顔を康介の方へ向かせる。

康介 「・・・・・・」

母・智恵の目がこちらを見ている。

身体を激しく揺らされながらこちらを見ている智恵の目には、涙が溢れていた。

高木 「はぁはァ・・・そろそろイクぞ!中に出してやる!いいな!?」

智恵は高木のその言葉に、泣きながら何度も頷く。

パンパンパンパンパン・・・・!!!

薄暗い部屋に生々しい肉と肉のぶつかる音が鳴り響く。

智恵 「アッアッアッ・・・ああああ!!!イッちゃう!イッちゃう!アアアアッ!・・・イクッ・・・・イクゥゥ・・・!!!」

高木 「・・・くっ!」

腰だけをピッタリと密着させたままベッドの上で動きを止めた2人は、全身汗だくで身体をビクビクと震わせている。

康介はその光景を黙って見つめ続けていた。

高木 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

智恵 「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

裸の男女2人の荒い息遣いだけが聞こえる。

幼い康介には何一つ理解できない光景。

康介 「・・・・・・」

しばらくして母・智恵の身体を放した高木は、自分だけベッドから降りて服を着始めた。

そして身なりを整えた高木は、まだベッドの上で裸のままグッタリとしている智恵の耳元で何かを囁いた後、ゆっくりと康介の方へと近づいて来た。

そして今度は康介の耳元で高木は口を開く。

高木 「・・・君のお母さんはね、どうしようもない変態淫乱女なんだよ。」

高木は子供の康介に向かってそれだけ言うと、寝室を出ていった。

康介 「・・・・・」

高木が居なくなって静かになった部屋。

康介はゆっくりとした足どりで、ベッドの上に横たわる母・智恵の方へ近づいていく。

智恵 「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

康介 「・・・お母さん・・・大丈夫・・・?」

目を閉じて荒い呼吸をしていた智恵が、康介の声でハっと目を開く。

智恵 「・・・こ・・・康介・・・」

康介 「お母さん・・・」

心配そうに智恵の肌に触ろうとする小さな手。

しかしそんな康介に対して、智恵は反射的に大きな声を上げた。

智恵 「リビングで待ってなさいって言ったでしょ!!!!」

康介は智恵の大きな声に一瞬驚いた表情を見せた後、目に涙を溜めた。

康介 「ぅぅ・・・ごめんなさい・・・だって・・・お母さんが・・・ぅぅぅ・・・」

そう、康介はただ母の事が心配で来たのだ。

智恵に大声を出された事で康介は自分が悪い事をしてしまったんだと思い、涙を流し始める。

しかしそれよもも先に泣き崩れたのは、母・智恵の方だった。

智恵 「ああ・・・ごめん康介・・・許して・・・ぅぅ・・・許してぇ・・・ぅぅ・・・」

そう言って智恵は泣きながら康介を抱きしめた。

髪の毛をボサボサにしたまま、顔をクシャクシャにして、智恵はまるで子供のように大泣きした。

康介もどうしたら良いのか分からずに、ただ智恵といっしょに大泣きした。

智恵 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ぅぅ・・」

ひたすら耳元で聞えた智恵の謝る声が、呪文のように耳から離れない。

母・智恵が康介の前から突然姿を消したのは、それから数週間後の事だった。